統合失調症って放っておくとどうなるの?精神医療を考える【その1】

正直、これを書くのは抵抗があったのですが、最近になって精神医療の在り方も変わってきたり、海外では割と知られていることだったと知ったりで、公開いてもいいかなと思うに至りました。

ここに書いたことは本に書いてあるものが中心です。あまりにボリュームが出たので数回に分けて書いていきます。

正直なところ私自身も困惑する内容ですが、精神科で働く看護師が、何か考えるきっかけになるかと思います。

目次

  • 昔の統合失調症の意外な予後
  • 先進国と途上国の比較

統合失調症の意外な予後

まずこちらの研究の数々をごらんください。

NIMH(アメリカ国立精神保健研究所)の研究

■1946~1950年、ペンシルバニアのウォレン州立病院に入院した統合失調症の患者62%が1年以内に退院(1)

■1948~1950年、デラウェア州立病院に入院した統合失調症216人も、ほぼ同様の結果

・85%が5年以内に退院

・入院から6年後、70%の患者が地域社会で問題なく生活(2)

■ニューヨーク州ヒルサイド病院の患者87人の追跡調査。半数以上が4年以内に再発なし

(※当時、統合失調症は多くの患者に適用された診断名。現在なら双極性生涯、統合失調感情障害も含まれる)

驚いたのは退院した数よりも、この時代にはまだ抗精神病薬がなかったこと。精神病の最初の薬であるクロルプロマジン(コントミン)が開発されたのは1952年。

同時期のイギリス(※アメリカと比べ統合失調症の定義が狭い)

■患者の33%が完全な回復、20%が仕事をし生計を立てるほどの社会的回復。(3)

カリフォルニア州精神保健局

1956年に入院にした統合失調症初回エピソード患者、その1,413人すべての退院率を報告。その結果、

■約半数の神経遮断薬(抗精神病薬)を処方されなかった患者の88%が1年半以内に退院

■逆に処方された患者の退院は74%

この研究は1950年代で唯一の大規模研究で、研究者らは「薬物治療実施患者は、入院期間が長期化する傾向が見られた。非実施患者は一貫して、入院継続率がやや低かった」と結論づけた。(4)

バーモント縦断的研究

1950~60年代初期、バーモント州立病院から退院した269人の患者。その20年後、生存168人の患者と面談を行ったC.ハーディング。分かったことは以下の通り

■34%が回復。症状はなく自活している、密接な人間関係を築けており、働いている、もしくは何かしら生産的な活動に従事、身辺のことは自分でこなし、充実した生活を送っている(5)

■この元患者達の共通点は「薬をかなり前に中止した」こと(2000年に報告) (6)

この結果からハーディングは、統合失調症は生涯、薬物療法を続けなければならないというのは神話。実際には薬が永久に必要な患者はごく一部なのかもしれない、と結論付けた。(7)

薬のおかげで入院数減少?

1960年代、「薬物療法のおかげで入院患者数が減った」と言われるように。しかし、それは薬物療法のおかげではなく、政策的なものの影響が考えられる。

メディケア・メディケイド(医療保険制度)が制定されたのです。このとき、介護施設で療養には国から助成金が出ました。しかし州立精神病院での療養には助成金が出なかったとか。

そこで費用節減を目指す州は、慢性患者を介護施設に移し始めた。このとき、州立病院の入院患者数が減少。

同時に、この時期に「薬物療法で入院患者数が減った」って言われるようにもなった(※アメリカでクロルプロマジンの認可がおりたのは1954年)。

先進国と途上国を比較した研究

1969年、先進国6カ国(アメリカなど)、途上国3カ国(インド、ナイジェリア、コロンビア)の計9カ国の統合失調症の転帰を追跡調査した。そこで分かったことは

■先進国より途上国の方が「著しく良好な経過と転帰」を示した

■途上国3カ国の患者は追跡調査期間中、無症状である可能性が高かった

■途上国3カ国の患者は「極めて良好な社会的転帰」だった

この報告に欧米の精神医学界は大騒ぎ。この研究にはデザイン上の欠陥がある!と抗議の声があがった。

それなら再調査

それを受けて1978年、10カ国を対象とする研究を開始。今回は統合失調症初発の患者を参加させ、欧米の基準で診断を行った。でも分かったことは前回とほぼ同じ結果(8)(9)

■2年目の終わりごろ、途上国の患者の66%が良好な転帰で残りは慢性化

■一方、先進国で良好な転帰を示したのは37%で、59%が慢性化

■途上国では規則的な服薬ができていたと仮説を立て追跡調査

■しかし途上国で規則的に服薬できていたのは16%

■先進国では規則的な服薬ができていたのは61%

■最も良好な経過だったのはインドのアグラ。しかし服薬を続けていたのは3%

■服薬をもっとも続けていたのはモスクワ。しかし慢性化した患者も一番高かった

実はあの機関

この研究、どこが行っていたかと言うと、医療者なら絶対知っているWHO(世界保健機関)最終的には

「途上国の転帰が良好であるという知見が確認された」

「先進国にいることが、完全寛解を達成できない強力な予測因子となっている」

と報告。この研究結果について様々な専門家に話を聞くと、アメリカで転帰が悪いのは社会政策と文化的価値観のせいだと示唆された。貧困国では家族が積極的に患者の面倒をみるからだと。

いかがでしたでしょうか?他にも沢山の研究結果が載せてあったのですが、ここにはいくつか抜粋して載せてます。是非、原著を読んでいただけたらと。

そしてこの本、最初に読んだのは5年前。内容自体衝撃的で、もし仮にここに書いてあることが本当なら、自分のやってきたことは本当に正しかったのだろうか?

そうモヤモヤしていました。しかし、臨床では教科書に書いてあることだけでは説明できない事象が起こるのも事実。

そんな思いを抱えていたのですが、つい先日、アメリカで働く友人(疫学者)にこの話をしてみたところ

そうそう、それ知ってる。アメリカの教科書には普通に書いてあるよ

とのこと。なーんだ。なら書いてみるか、と思い立ち公開するに至りました。精神科で働く皆さん、これ読んでどう思いましたか?

私は正直分かりません。そして、どの研究も1900年代末でやや古いです。各研究のパーセンテージを見ても、放っておけば全員良くなる!ってことでもなさそう。

今、同じ研究をしたら違ったものになるかもしれません。あくまで「本を読んで驚いたので共有してみた」、というレベルで読んでくれればと思います。

あと、この本はオープンダイアローグが世界的に知られるようになったきっかけにもなったそうです。

他にも「この本読んだよ!」っていう方いたら教えて下さい。是非、感想聞いてみたいです。

衝撃的過ぎて何度も読み返した

次回以降は精神疾患の原因、精神障害の時代や国ごとの扱いの違いついて触れていきます。

参考資料

精神看護の展開/武井麻子

精神疾患は脳の病気か?/エリオット・ヴァレンスタイン

心の病の「流行」と精神科治療薬の真実/ロバート・ウィタカー

(1) J.cole, editor, Psychopharmacology (Washington, DC:National Academy of Sciences, 1959), 142

(2) Ibid, 386″-87

(3) R.Warner, Recovery from Schizophrenia (Boston: Routledge & Kegan Paul, 1985), 74

(4) D.Greenblatt,”Meprobamate:a study of irrational drug use,” American Journal of Psychiatry 127(1971):33-39.

(5) C.Harding, “The Vermont longitudinal study of person with severe mental illness,” American Journal of Psychiatry 144(1987) : 727-34; C.Harding,”The Vermont longitudinal study of person with severe mental illness,Ⅱ,”American Journal of Psychiatry 144(1987):727-35

(6)P.McGuire,”New hope for people with shizophrenia,” APA monitor 31.(February,2000)

(7)C.Harding,”Empirical correction of seven myths about shizophrenia with imprications for treatment,” Acta Psychiatrica Scandinavica 384, suppl. (1994):14‐16

(8)A Jablensky,”Schizophrenia: manifestations, incidence and course in different cultures,” Psychological Med-icine 20, monograph(1992):1-95

(9)K.Hopper,”Revisiting the developed versus developing country distinction in course and outcome in shizophrenia,” Schizophrenia Bulletin 26(2000):835-46

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