病棟に安全を!と結成された患者自警団。あっけなく解散。人との距離感って何?

精神科には認知症の患者さんが時々入院してきます。今回はそんな患者さんと、若手患者グループのお話。

かわいらしい爺様の山口さん(仮名)

認知症で入院した山口さん。散歩に出たまま帰ってこれなくなったり、スーパーで未払いのまま店を出ようとすることが増え入院。

入院生活に戸惑いはしていたものの、物腰の落ち着いた老紳士といった雰囲気とかわいい笑顔で、看護師から人気のある患者さんでした。

ただ、他の患者さんがテーブルに置いていったコップや雑誌を持っていったり、窓にむかってブツブツ言っていることがありました。

患者仲良しグループ

10代~20代、パーソナリティ障害や適応障害の4人グループ。年齢が近いこともあり、いつも一緒に過ごしていました。

しかし、だんだんと「あの患者気持ち悪い」「看護師の〇〇さんは話を聞いてくれない」などの不満が増えるように。

共有スペースのテーブルを溜まり場とし、自分達の所持品(コップ、雑誌、お菓子など)まで置きっぱなしに。

注意してもその場では謝るものの改善は見られず。病棟を我が物顔で使うようになりました。

あの人、保護室入れてよ

ある日、事件は起こります。認知症山口さんが他の患者さんのコップを持っていってしまい、歯磨きをしてしまったのです。

しかもよりによって患者グループの中でも一番不満が多い方のコップを。こちらで回収したものの「あんな汚いジジイの使ったコップ使えるわけないでしょ!」と激怒。

しかし私達も入院時のオリエンテーションで「こういうことがあるからと散々伝えてきましたよね?」と再度説明。しかし

患者を守る病院で「こんなこと」があっていいのか!?

と激怒。最終的には「なんであんな迷惑老人を野放しにしてるんだ!」「ああいう患者こそ保護室にいれるべきだ!」とまで。(精神科では患者さんからたまに聞く言葉)

仲良しグループから自警団へ

その日を境に、山口さんを始めとする、ちょっとした迷惑行為(カベに向かって喋ってる、手洗い30分してるとか)のある患者さんに対する当たりが散見するように。

壁に向かって独り言をする患者をみては看護師をつかまえ「あいつ気持ち悪いからやめさせてよ」と言い、「壁に話しかけてるだけだから危険はない」ことを伝えるも「キモイ」の一点張り。

まあ確かに気持ち悪さはあるだろう。だからこそ「変に近づいかないで距離をとるのがいいのでは?わざわざその患者さんが視界に入る所でダベらない方がいい」と伝えた。

それに対し「なんで私達が動かなきゃいけないのよ」と断固拒否。距離をとれば済むことなのに…

挙句の果てに「看護師が何もしないなら私達でやる」とまで言いだし、自警団をつくってしまったのです。

エスカレートする摘発行為

壁に向かって喋る患者。その主治医をつかまえ「あの人、もっと薬飲ませてくださいよ」

手洗いする患者(強迫性障害)に「気合が足りないからダメなのよ!」と説教

認知症の山口さんに対しては、コップを持っていかれたこともあり、近づいてきただけで(むしろ徘徊しているだけ)

「こっち来るなクソジジイ!!」

の罵声。そんなことが地味~に続き、病棟としても手を焼いておりました。

この間、自警団と他患とのちょっとしたトラブルが起こる度に「距離をとるように」と伝えてましたが、その意味が理解できないのか、自ら近づく自警団。

矛先は山口さんの家族にまで

「あなたのご家族は老人ホームに行くべき!って絶対言う」と息を巻く自警団。その日はあっさりやって来ました。山口さんの妻が面会に来ていたのです。

「すいません、ちょっといいですか?」と山口さん妻に話しかける自警団。ことの顛末を伝えると「大変申し訳ありませんでした」と謝る妻。

「是非、お詫びをさせてください。お時間いただいてもいいですか?」と言う妻に対し、満足そうな様子の自警団。

しかし事態は急展開を迎えます

山口さんのお仕事

妻はすぐに電話を取り出しどこかに電話をかけます。3分もしないうちに、3人の男性が病棟に入ってきました。

2人はスーツを着てます。足元はヘビ柄の革靴です。

1人はラッパーのようダボっとした格好にスキンヘッド。

お気づきでしょうか?実は山口さん

アチラの世界の方だったのです

写真はイメージ:出典TeamBlackStarz

山口さんの妻は3人に何やら説明。3人は終始頷いている。さすがに気づいたのか、その横で固まる自警団。

その数分後には「と〇やのどら焼き」を持った別の男性(ビジュアル的に一番その道の方っぽい)が現れた。

お詫びのどらやきを青ざめた顔で受け取った自警団。最後まで謝る山口さんの妻に「いえ、もういいんです。こういうこともありますから」と。

ふーーーーーーん。「こいうこと」あるんだ

その後

自警団の中心人物は「もう良くなったから」とあっさり退院。一人はうつ状態がひどくなったから、と転棟。

他のメンバーも「この病院はなんか合わない」など、あれこれ理由をつけて3日もしないうちに全員退院。

「まだ治療途中」、と主治医から引き止められたが振り切るように出て行った。

精神科はリピーターの患者さんが多い。しかし、この自警団メンバー。その後は一度もみることがありませんでした。

そして山口さんは南の島の高級有料老人施設に退院されました。退院のお迎えは「ご家族」総出でした。

このケースからみるイジメの構造

この一件でカンファレンスが行われた時、こんな結論に至りました。

「人は攻撃しやすい人間を選んで攻撃する」

人は自分が勝てそうな立場にいるとき(相手は少数派、または絶対弱いと見込んだとき)しか攻撃しません。それはイジメでも同じ構図。

不適切な例えになるかも知れませんが、痴漢も「おとなしそう、何も言わなそう、やりかえさなそう」という女性を選んでるそうです。(痴漢については後日記事にします)

あとは相手に対する「甘え」があるとも言われています。「自分のことわかってよ!わかってくれて当然だよね?!」といったもの。

ツイッターの炎上でも、たまに同じようなケースが散見されます。女性がやられやすい印象があるのですがどうでしょうか?

痴漢の話に戻りますが、日本は「女性軽視」が社会にしみこんでおり、男性の根底にも「女性軽視」があるのだそう。女性ツイッタラーに対する炎上系も無関係ではないのかなと思います。

私自信、この手の炎上は「放っておけばお互い楽じゃない?」と思うことがほとんど。今回の記事はそんな場面を見て思い出したので書いてみました。

遠くの誰かを正すより、目の前にいる人のために力を注ぐ

その方が建設的だと思うのです。今日の話は以上。(こう言いながら見たこともないほど遠くのお局叩いてごめんなさい)

誰も他人のこと言えないですね。

ちなみに、山口さんのようなその道の方は礼儀正しい紳士が多いです。

参考文献

いじめの構造なぜ人が怪物になるのか 内藤朝雄 

精神看護学[1] 精神看護の基礎 武井麻子

入門 犯罪心理学  原田隆之

男が痴漢になる理由  斉藤章佳

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする