看護だけで電波妄想が消えた話

「電波で攻撃されてるんです」

精神科ではたまに聞く言葉。患者さんからこう言われたら、あなたはどうしますか?
私はこの状況を看護(なのか?)だけで、たまたま改善させたことがありました。看護師2年目ぐらいの時の話。

※ここで登場する患者さんを再現するために画像使っています。私たち精神科看護師が、普段どのようにアプローチしているのかを分かりやすくするためのものです。悪しからず

目次

  • つながる心と身体
  • 出オチでは済まない辛さ
  • 頭痛の原因はスカイツリー
  • 電波を防げ
  • 全ての電波から守れ
  • 消えた電波

つながる心と身体

急性期に異動になって最初の年。Jさんという60代男性の統合失調症の方が入院することになりました。

外来カルテを読むと、主訴は「電波から攻撃され、頭痛がひどい」とのこと。元々偏頭痛もちなのかな?などと思いました。

身体的な症状が、精神症状に結びつくことはよくあります。例えば「妊娠したの!」とパンパンに張ったお腹を見せてきた患者さん。

実は、ひどい便秘でお腹が膨れてた、なんてこともザラにあります。「その類だろう」と思い、私は外来にJさんを迎えに行ったのでした。

出オチでは済まない辛さ

外来の待合室に到着。そこで外来スタッフに紹介されたJさんの姿に言葉を失うのでした。

 

口元に銀色に輝くアルミホイルをつけているのです。つけているというより、突き出した唇でなんとか挟んでいる、といった状態。こんな感じ↓↓

しかし、本人のつらそうな表情を見ていると「笑い事ではないのだな」と感じます。しかし、まだ経験も浅く、驚きもあり、どんな声をかければいいか分からず…

辛そうな様子のJさん

そしてJさん、会話をする時は手でアルミホイルを持って話します。

こんな感じ

そんな状態なので、手が塞がっているときは口がすぼんだままになり、うまく聞き取れません。なんとも不便そうです。

これからの入院生活は大丈夫だろうか、と心配になります。

頭痛の理由はスカイツリー

その後、入院を手続きをしたJさん。やはり「頭が痛い」と訴えます。血圧などのバイタルサインに異常はありません。

外来での検査結果もあがってきましたが、身体的な異常所見は見当たりません。主治医も「おそらく精神的なものだろう」と判断し、精神薬による治療となりました。

診察でJさんにもその結果を伝えると、やや納得いかない様子でこういったのです。

この頭痛は絶対スカイツリーのせい。あそこから電波で攻撃されている

おお、これが電波妄想というやつか。そう思いながら、主治医の横で見ていたい私。

主治医も「そうなんですね。もし電波がひどくなって辛くなるようでしたら、頓服薬を用意しておくので、看護師さんに伝えて飲んでください。多少良くなると思います」と丁寧に伝えます。

電波を防げ

Jさんいわく、スカイツリーからの電波は口元周辺に当たり、それが頭痛につながっているのだそう。

そして口元のアルミホイルは、その電波を防いでくれていると話します。そうすることで多少不便でも、電波は防げるのだそう。

なるほど。Jさんなりの対処行動だったんだな。しかし、アルミを挟んだままの不便な生活は大変そうです。食事を食べる時は、こんな感じ。

本人もしんどそうです。そんなJさんを何とかしてあげたいな、と思った私はあることを思いつきました。

Jさんと相談しこのようにしたのです

そう、ただテープで張っただけです。「これはラクですね。ありがとうございます」と、Jさんは喜びます。

しかし、少々奇異な姿に周りの患者さん達はどよめきます。なかには「シーサーという看護師が患者で遊んでいる」などの声も。

しかし当時の師長が丁寧に対応し、事情を伝えてくれたため大事にはなりませんでした。そして話すとき、食事のときも開閉自在な仕組みに本人も満足していました。

こんな感じ

全ての電波から守れ

しかし表情がスッキリしないJさん。まだ何か心配事でもあるのか訊ねると、こう答えました。「実は全身に電波があたっている。本当は全身にアルミを巻きたい」と。

今でさえ驚く姿。全身にアルミホイルはさすがにできません。近未来的ミイラになってしまうでしょう。

しかし本人は電波の防御を切に願います。「どうしたものか…」と困ってはいましたが、何かできるはず、と質問を変えてみることに

「一番どこに電波があたりますか?」

そう質問すると「頭」と答えたJさん。それなら何とかなりそうだ。そこで再びJさんと相談した結果こうなりました

「スピルバーグからスカウト来そうですね」

「そのギャラでスカイツリーつぶします」

それからしばらくはこのスタイルで生活したjさん。院長回診の時、他のDrが驚くなか微動だにしない院長は「どうされたんですか?」と優しくJさんに声をかけます。

「あの看護師さんが電波防いでくれたんです」言ったものですから、さすがに干されるかと思いましたが、院長は「それは良かったです」と、ただ笑ってました。ありがとう、院長。

消えた電波

その後、私は長期休暇をとり、約1週間ぶりに出勤。するとJさん、一切のアルミホイルをつけていません。むしろアルミホイルがないと、Jさんということに気づきません。

「電波、大丈夫なんですか?」と聞くと、「もう飛んでこなくなったよ。ありがとう」と感謝されました。そしてこう続けたのでした。

最初、電波が飛んできたときは口周りに違和感があっただけなんだよ。でも「電波のせいだ」って言うと、みんな怪訝そうな顔するから誰にも相談できなくなってさ。だんだん頭痛してくるし、なんとかしたいと思ってアルミホイルつけたんだけど、今度は不気味がられるのよ。困っちゃってさ。ただ、あんたは電波についてちゃんと聞いてくれて、心配もしてくれた。どうやったら防げるかも一緒に考えてくれたから助かったよ。ありがとな

とのこと。なるほど。ちゃんと話を聞いたのが良かったのか。続けてJさんはこんなことも言いました。

頭痛もさ、多分、口元をずっと尖らせてて、顔とか首の筋肉も痛かったし、肩こりもひどかったんだよ。だからテープで張ってくれた日から、頭痛は軽くなっていったよ。今思えば、頭痛もそこから来てたんだろうな。案外、電波だけのせいじゃなかったのかも

電波と訴えていた人がここまで冷静に振り返れるのか…

そんなことを思いながら看護記録やカルテを読み返しました。薬剤調整をする予定だったようですが、入院前と処方内容はほとんど変わっていません。

カルテによると「看護師さんが、これで防げるようにしてくれたから、薬は増やさずに様子をみさせてほしい」と主治医に伝え、本人の意思を汲んで処方は変えずにいたようです。

https://twitter.com/seasar_sa1ada/status/1107903946507485184

Jさんはその後、無事退院。それからはデイケアなどで会うことが度々ありました。「最近、電波どうですか?」と聞くと「季節の変わり目はちょっとくるね。体調崩すほどじゃないけど」と、まるで風邪をひくかのような感覚で話します。

教科書には「妄想は否定も肯定もしない」と教わりましたが、臨床にいる精神科看護師からすると「一概には言えない」と考える方は多いかと。

訪問看護で働いてたとき、口すっぱく言われていたのが「患者さんはどう思っているのか?どう感じているのか?それを聞くことが大事だ」と教わりました。

Jさんも、しっかり話や思いを聞いてもらえたことで、精神的な安定を得られたのかもしれません。それが結果的に「電波」という幻覚妄想に影響したのかと。

でもたまたま、うまくいったケースだと思います。

振り返ると精神看護の基本って、本当にコミュニケーションにある、と思い出させてくれるエピソードでした。

ちなみに、今回の記事は誤解を生まないようムメカンにチェックしてもらいました。最近、ムメカンは教授になるための一歩を進めた男。是非是非フォローを

※念のためもう一度。Jさん個人を否定するものではないです。悪しからず

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